社員が選ぶ 最近読んだ1冊 NO.083

おすすめ人 この1冊 こんな本です
HT
2011.12.22


「フランドルの冬」

加賀 乙彦

出版社
フランドルは、フランス北部とベルギー西部の地方です。
「フランダースの犬」は日本人におなじみの作品ですが、これは”フランドル地方の犬”ということ。
「フランダースの犬」を思い出すと静かな寒い田園風景が心に浮かびますが、本書「フランドルの冬」はフランドル地方の精神病院を舞台にした小説です。

時代はおそらく1960年代頃。実際に精神科医である作者・加賀乙彦氏はフランスの精神病院に勤務した経験もあり、その体験に基づいた作品と思われます。

この作品に出てくる言葉に「世界内存在」があり、人が通常に生活していく・人が存在すると認識される世界を指しますが、この世界内存在に生きるために人間は束縛を受けていると書かれています。
この「世界内存在」から脱出するための方途が、狂人と自殺であり、脱出しつつも狂人・自殺まで行かない方途が「精神的な異邦人になること」と書かれます。

天才的な精神科医・ドロマールと、心に深淵を抱える医師・クルトン、フランドルの病院にあって実質的な異邦人である日本人医師コバヤシ、3人の精神科医が「世界内存在」の枠から外れ、次第に壊れていく様を描きます。

精神世界が描かれている作品ですが、作品そのものはとても読みやすく非常に心惹かれる1冊でした。

新潮文庫

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